

今回からデザインのコラムを担当することになりました村澤一晃です。
はじめにご挨拶を少し。「デザイン」という言葉は今やとても一般的になりました。ちまたではデザイン家電とかデザイナーズマンションとか、さらにはライフデザイン(生命保険の事です)という言葉まで登場。デザインというフレーズをつける事で付加価値がついているような錯覚があふれていますよね。でも、実際デザインとは何?と聞かれると困る人も多いと思います。
私の仕事は家具を中心とした生活道具のデザインです。ですが、デザインを考えるとき、モノの姿形だけを考えているわけではありません。このコラムではデザインの仕事をしている人間がデザインをどのようにとらえているのかを様々な事例を通して伝えてゆければと考えています。
第一回目のテーマは「靴を脱ぐ」です。
私たち日本人は家では靴を脱いだ生活をします。そのことに違和感を感じる日本人はほとんどいません。でもこれは世界的には珍しい習慣で、海外の家に招かれたとき、そのまま家の中に入るのに躊躇する人も多いはず。そもそもなぜ日本人は靴を脱ぐ生活をしているのか、は脇に置いておいて(興味のある方は調べてみてください。意外に面白いエピソードがあります)今回は靴脱ぎという独特の習慣がどのくらい生活道具のデザインに影響を与えているか考えてみましょう。
写真1:ottimo/宮崎椅子製作所/design 村澤一晃
写真2:スポークチェア/天童木工/design 豊口克平
写真3:TASTO/ナガノインテリア工業/design 村澤一晃
まず一つ目が「サイズ」です。サイズはよく体格の違いが重要視されますが、私は靴の存在も大きいと考えています。欧米の椅子の多くは座面までの高さが46cm前後ですが、これは靴を履いて座る事が前提のサイズです。家具屋で輸入品の椅子に座っても意外に違和感無いのは靴を履いているからです。この状態は「脚だけが伸びている」わけですから、体全体のバランスとは違う寸法がプラスされているわけですね。私は椅子のデザインをするとき42cmぐらいでデザインしていますが、それは日本人が家でくつろぐ高さは靴を脱いだ状態を考えて42cm前後がいいのではと思うからです。でも椅子の脚が短いとプロポーションが崩れるのが悩みの種。欧米のデザインが写真でかっこ良く見えるのは、この3〜4cmのおかげかもしれません。
さらに私のデザインした椅子の多くは少し座面サイズが広めです。(写真1)
実はこれも靴脱ぎと関係があります。私たちの大好きな床座りの姿勢のあぐら。実は私は椅子の上でもあぐらをかく癖があります。あぐらまではゆかなくても片足をあげたりする方は多いと思いますし、学校などでは椅子の上に体育座りしている学生もいて面白いです。この座り方は靴脱ぎだから生まれる日本独特の座り方でしょう。座面が少し広めだと、あぐらが楽なんです。「低くて広い」は靴脱ぎの日本ならではのデザインとも言えるのです。(写真2)
二つ目は「素材」です。日本で愛される道具に木製が多いのは、素足感覚からきているのではないかと考えています。素足で感じる畳の感覚と同様、自宅でくつろぐときには靴下まで脱いでしまう方が気持ちいいですよね。足は手よりも敏感な感覚器官です。だから素足が受ける感覚は体全体に影響を与えます。床の素材もそうですが、椅子でも同様に足が触れるときの木の暖かさや感触を楽しんでいるのではないでしょうか。ラグやクッションも実はこの素足感覚がデザインの大切な要素なのでしょう。最近「い草ラグ」が注目されていたり、い草を使った家具(写真3)がデザインされているのは、改めて素足感覚で感じる季節感が見直されているからだと考えています。
靴というプロテクターに守られた文化とは違うデザインが生まれる。
身近なアイテムも少し違った視点で観察すると楽しい発見があるかもしれません。
村澤一晃
1965年生まれ。ICSカレッジオブアーツ卒業。垂見健三デザイン事務所を経てイタリア留学。セルジオ・カラトローニに師事。帰国後、ムラサワデザインを設立し、現在に至るまで精力的に家具デザインなどの活動を行っている。
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